日本酒の造り方|精米から火入れまで全11工程を図解でたどる
この記事を監修
平沼柊哉
酒学道場 代表・J.S.A.正会員
この記事の結論
- 造りが複雑なのは、糖化と発酵が同じタンクで同時に進む並行複発酵という方式をとるため
- 全11工程のうち、酒質の骨格は製麹・酒母・三段仕込みの3工程でほぼ決まる
- 生酛・山廃酛・速醸酛の分かれ目は、乳酸を自然に造らせるか最初に加えるかの一点
- 三段仕込みで4日かけるのは、酵母の密度と酸度を保ったまま仕込み量を増やすため
- 火入れの回数と順番が、生酒・生貯蔵酒・生詰酒を分ける
- 二次試験では、香味の根拠を工程まで遡れるかが差になる
日本酒のラベルには「生酛」「中取り」「ひやおろし」といった言葉が並びます。どれも宣伝文句ではありません。造りのどこで何をしたかを示す、工程の名前です。由来にあたる工程を知れば、飲む前から酒の輪郭が見えてきます。
酒ディプロマの受験者にとっては、なおさら避けて通れない知識です。二次試験で「上立ち香に乳酸系のニュアンス」と感じたとき、それを生酛系酒母の特徴として説明できるかどうかは、造りを工程で理解しているかにかかっています。
精米から瓶詰めまでの全11工程を、図解とともに順にたどります。
この記事の対象読者
- 日本酒がどうやって造られるのかを一度きちんと整理したい方
- 酒ディプロマ一次試験の製造分野を体系立てて覚えたい方
- 二次試験のテイスティングで、香味の根拠を造りから説明できるようになりたい方
- ラベルの「生酛」「無濾過生原酒」といった表記の意味を知りたい方
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日本酒だけが、糖化と発酵を同じタンクで同時に進める
ワインの原料であるブドウは、果汁の時点ですでに糖を持っています。酵母を加えればそのままアルコールになるので、工程は単純です。いっぽう米はデンプンの塊で、糖はほとんど含まれていません。まず誰かがデンプンを糖に変える必要があります。
その役目を負うのが麹です。麹菌が出す酵素がデンプンを糖に分解し、その糖を酵母がアルコールに変えます。ビールでも同じ二段構えが必要ですが、ビールは麦芽で糖化を済ませてから発酵タンクに移します。日本酒は糖化と発酵をひとつのタンクで同時に走らせます。これを並行複発酵と呼びます。
同時に進むことの利点は、糖が一気に増えないところにあります。糖度が高すぎると酵母は浸透圧で弱りますが、糖化がゆっくり進めば酵母は最後まで働き続けられます。結果として醪のアルコール度数は20%前後まで上がり、これは醸造酒としては世界的にも高い水準です。
工程が複雑に見えるのは、この同時進行を人の手で制御しているからにほかなりません。
全11工程の地図 — 前半で骨格が、後半で表情が決まる

精米から瓶詰めまでは、次の11段階に分けて整理できます。
| # | 工程 | 期間の目安 | 何を決める工程か |
|---|---|---|---|
| 1 | 精米 | 20〜50時間 | 雑味の量と酒の呼び名 |
| 2 | 枯らし | 2〜3週間 | 米の水分の均一化 |
| 3 | 洗米・浸漬 | 数十秒〜数時間 | 吸水率 |
| 4 | 蒸米 | 約1時間 | 米の硬さと溶けやすさ |
| 5 | 製麹 | 約48時間 | 糖化力と酒質の方向 |
| 6 | 酒母(酛) | 2〜4週間 | 酵母の量と酸の性格 |
| 7 | 三段仕込み(醪) | 20〜40日 | 香りと味の大部分 |
| 8 | 上槽 | 1日 | 清澄度と味の濃淡 |
| 9 | 滓引き・濾過 | 数日〜 | 色と雑味 |
| 10 | 火入れ・貯蔵 | 半年〜1年 | 熟成の度合い |
| 11 | 割水・瓶詰め | 1日 | アルコール度数 |
蔵人のあいだで古くから言われてきた「一麹、二酛、三造り」は、この順番のうち5・6・7が酒質を左右するという意味です。裏を返せば、8以降は前半でできあがった骨格に表情を足す工程だと考えて差し支えありません。
米を削り、水を吸わせ、蒸す — 原料処理の3工程
精米は「何%残したか」で表す
玄米の外側にはタンパク質と脂質が多く含まれ、これらは酒にすると雑味や色の原因になります。そこで表面を削り、中心のデンプン層だけを残します。
精米歩合は、削った割合ではなく残った割合を指します。精米歩合60%なら、玄米の40%を削って60%が残ったという意味です。この数値が特定名称酒の区分を決めます。

| 特定名称 | 精米歩合 | 醸造アルコール |
|---|---|---|
| 大吟醸酒 | 50%以下 | あり |
| 吟醸酒 | 60%以下 | あり |
| 特別本醸造酒 | 60%以下、または特別な製造方法 | あり |
| 本醸造酒 | 70%以下 | あり |
| 純米大吟醸酒 | 50%以下 | なし |
| 純米吟醸酒 | 60%以下 | なし |
| 特別純米酒 | 60%以下、または特別な製造方法 | なし |
| 純米酒 | 規定なし | なし |
純米酒に精米歩合の規定がないのは2004年の基準改正以降で、一次試験では繰り返し問われる論点です。また、いずれの特定名称酒も麹米使用割合15%以上という条件を共通で満たす必要があります。
削るには時間がかかります。山田錦を精米歩合35%まで磨く場合、摩擦熱で米が割れないよう速度を落とすため、50時間前後を要するのが一般的です。品種ごとの粒の大きさや心白の出方については酒米大全で整理しています。削り終えた米は熱と摩擦で乾ききっているので、2〜3週間そのまま置いて水分を戻します。これを枯らしと呼びます。
洗米・浸漬では秒単位で水を止める
削った米を洗い、狙った量だけ水を吸わせます。吸水率の目標はおおむね28〜30%で、この幅を外すと蒸し上がりが変わります。
高精白の吟醸用の米は吸水が速く、10kg程度の小分けにしてストップウォッチで秒を計りながら引き上げます。この作業を限定吸水と呼びます。
蒸米は「外硬内軟」に仕上げる
甑(こしき)で1時間ほど蒸します。理想は外側が硬く内側が軟らかい状態で、これを外硬内軟といいます。外側が硬いと麹菌の菌糸が表面を滑らずに内部へ食い込み、内側が軟らかいと酵素が働きやすくなります。
蒸し上がった米は放冷され、麹用・酒母用・掛米用と用途ごとに温度を変えて振り分けられます。
製麹の48時間で、麹菌をどこまで食い込ませるかを決める
蒸米に麹菌(Aspergillus oryzae、黄麹菌)を振りかけ、麹室で約48時間かけて繁殖させます。温度は30度台から40度台へ、湿度とともに時間単位で管理されます。

菌糸が米粒のどこまで入り込んだかを、蔵では破精込み(はぜこみ)と呼びます。米粒の表面全体に菌糸が広がった状態が総破精、表面のところどころに斑点状に破精て内部へ深く伸びた状態が突き破精です。
総破精麹は糖化力が強く、味の濃い濃醇な酒になります。突き破精麹は糖化が穏やかに進むため、雑味の少ない淡麗な酒質に向き、吟醸造りで選ばれます。造りたい酒の方向が、麹の段階ですでに決まっているわけです。
酒母の分かれ道は「乳酸をどう手に入れるか」の一点
酒母(酛)は、優良な酵母を高密度に増やすための小さなタンクです。ただし増やしたいのは酵母だけで、野生酵母や雑菌には入られたくありません。そこで乳酸で液を酸性に傾け、酵母以外を締め出します。
この乳酸を、蔵に棲みつく乳酸菌に造らせるか、醸造用乳酸として最初から加えるか。分岐はここだけです。

| 生酛 | 山廃酛 | 速醸酛 | |
|---|---|---|---|
| 乳酸の由来 | 天然の乳酸菌 | 天然の乳酸菌 | 醸造用乳酸を添加 |
| 山卸(酛摺り) | あり | なし | なし |
| 所要日数 | 約4週間 | 約4週間 | 約2週間 |
| 酒質の傾向 | 複雑、酸が高い | 複雑、力強い | 端正、クリーン |
生酛では、半切桶に入れた蒸米と麹を櫂で丁寧にすりつぶします。この作業が山卸(やまおろし)、または酛摺りです。真夜中から明け方にかけて数時間続く重労働として知られてきました。
山卸を省いても糖化は問題なく進む。これを実証したのが嘉儀金一郎で、1909年に会津の末廣酒造で実地試験が行われました。山卸を廃止した酛、つまり山廃酛の誕生です。翌1910年には江田鎌治郎が愛知・常滑の澤田酒造で速醸酛を確立し、乳酸を加えることで所要日数を半分に短縮しました。
現在の使用比率は速醸が約90%、山廃が約9%、生酛が約1%とされています(出典: SAKETIMES)。手間を考えれば当然の分布ですが、複雑な酸を求めて生酛系に戻る蔵が近年目立つのも事実です。
三段仕込みで4日かけるのは、酵母に主導権を握らせるため

できあがった酒母に、蒸米・麹・水を3回に分けて加えていきます。
初日に加えるのが初添(はつぞえ)。翌日は何も加えず、酵母が増えるのを待ちます。この待ちの一日を踊りと呼びます。3日目に仲添(なかぞえ)、4日目に留添(とめぞえ)を加えて仕込みが完了し、総量は酒母の10倍以上にふくらみます。
一度に全量を仕込まないのは、酸と酵母が薄まるからです。薄まった瞬間に雑菌の側が優位になり、腐造のリスクが跳ね上がります。段階的に増やせば酵母は増殖に追いつき、酸度も保たれたまま量だけが増えていきます。4日という期間は、酵母に主導権を渡し続けるための設計だと考えるとわかりやすいでしょう。
仕込み後の醪は20〜40日かけて発酵します。吟醸造りでは10度前後の低温で30日以上かけ、リンゴやメロンを思わせるカプロン酸エチル、バナナを思わせる酢酸イソアミルといった吟醸香を引き出します。低温で長期間という条件が、香りを揮発させずに液中へ残す鍵になります。
搾る順番で、荒走り・中取り・責めに分かれる

発酵を終えた醪を搾り、酒と酒粕に分ける工程が上槽(じょうそう)です。現在の主流は自動醪搾機(通称ヤブタ)で、伝統的な槽(ふね)や、袋を吊るして自重だけで滴らせる袋吊り(雫取り)も残っています。鑑評会の出品酒には、圧力をかけない袋吊りが選ばれることが多いようです。
搾りは最初から最後まで均質ではありません。最初に自然に流れ出る荒走りはうすく濁り、炭酸のガス感と荒々しい風味を伴います。続く中取り(中汲み)は最も澄んでバランスがよく、この部分だけを瓶詰めした商品も珍しくありません。最後に圧力をかけて絞り出す責めは、味が濃い代わりに雑味も混じります。
上槽後は数日かけて滓(おり)を沈め、上澄みを取ります。さらに活性炭などで濾過すると色と香りが整いますが、この濾過を省いた酒が無濾過です。
火入れの回数と順番が、生酒・生貯蔵酒・生詰酒を分ける

65度前後で短時間加熱し、火落菌を殺して酵素の働きを止める処理が火入れです。通常は貯蔵の前と瓶詰めの前の2回行います。この2回のうちどちらを省くかで、呼び名が変わります。
| 呼称 | 貯蔵前の火入れ | 出荷前の火入れ |
|---|---|---|
| 一般的な清酒 | あり | あり |
| 生貯蔵酒 | なし | あり |
| 生詰酒(ひやおろし) | あり | なし |
| 生酒 | なし | なし |
秋に出回るひやおろしは生詰酒にあたります。冬に搾った酒を火入れして夏を越させ、外気と貯蔵庫の温度が近づく秋に、そのまま「冷や」で卸す。名前がそのまま工程を説明しています。
貯蔵を終えた酒は、アルコール度数17〜20%の原酒のままです。ここに仕込み水を加えて15〜16%に調整する作業が割水で、加水しないものが原酒と表示されます。「無濾過生原酒」というラベルは、濾過なし・火入れなし・加水なしの三つを同時に宣言していることになります。
二次試験では、造りの知識が香りの説明に変わる
酒ディプロマの二次試験は2026年9月28日(月)です。テイスティングで問われるのは香味の言語化ですが、根拠を工程まで遡れると選択に迷いが減ります。
たとえば、乳酸を思わせる厚い酸と複雑な含み香を感じたなら、生酛系酒母を疑う根拠になります。カプロン酸エチル由来の華やかな香りが立てば、低温長期発酵の吟醸造りが背景にあると推測できます。フレッシュで微発泡感があるなら火入れの回数を、旨味と苦味が前に出るなら精米歩合の高さを考える。感覚と工程を往復できるようになると、コメント用紙の選択が推測から判断に変わります。
評価軸の使い方やコメント用紙の書き方そのものは二次試験テイスティング完全ガイド、日本酒4種と焼酎2種を見極める手順はテイスティング対策で扱っています。造りの知識は、その判断を裏側から支える材料になります。
一次試験の製造分野についても、丸暗記より工程の因果で覚えるほうが定着します。山廃が生酛と何を共有し何を省いたのか、なぜ三段に分けるのか。理由まで押さえた知識は、選択肢をひねられても崩れません。
まとめ
日本酒の11工程は、糖化と発酵を同時に走らせるという無理を、人の手で成立させるための手順書です。麹で糖化の速度を決め、酒母で酵母と酸を確保し、三段仕込みでその均衡を保ったまま量を増やす。前半3工程の設計が、そのまま最後の一杯の輪郭になります。
次の一本を開けるときは、ラベルの「山廃」「中取り」「生詰」を工程の位置に置き換えてみてください。造り手がどこで何を選んだかが見え、味の理由が後から追いかけてきます。
よくある質問
精米歩合が低い酒ほど上等ですか?
精米歩合は方向性を示す数値であって、品質の順位ではありません。削るほど雑味は減りますが、米の旨味も同時に失われます。精米歩合80%台で旨味を前面に出す酒も高く評価されています。
醪の期間はなぜ酒によって違うのですか?
温度と狙う香りが違うためです。吟醸造りは10度前後の低温で30〜40日かけて吟醸香を残し、普通酒はやや高い温度で20日前後と短く仕上げます。
生酛と山廃では味の傾向が違いますか?
どちらも天然の乳酸菌を使うため酸が高く複雑になる点は共通です。山卸の有無による差は蔵ごとの設計に左右され、生酛が必ず繊細で山廃が必ず力強いといった単純な対応関係ではありません。
参考文献・情報源
📝 更新履歴
- 2026年8月2日:初版公開
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